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資生堂イノベーションの最前線 ~ 研究所とIT部門が共創するDXの新時代!

資生堂では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための様々なプロジェクトが進行中です。今回紹介する「化粧品開発デジタルプラットフォーム(VOYAGER)へのAI技術搭載)」プロジェクトは、人々の経験値だけでは導き出せない、AIとの共創から生まれる革新的な価値創出の開発スピードを加速させ、迅速に市場に展開、さらに研究員が新しいイノベーションを生みだす創造的な研究により注力できる環境づくりを目的としたもので、研究開発部門と資生堂インタラクティブビューティー(以下、SIB)とが一体となってAI機能開発に取り組んでいるものです(下記リンク参照)。

【資生堂プレスリリース】研究・サプライネットワーク 資生堂、100年にわたる研究の蓄積と先進AI技術を融合し共創から生まれる革新的な化粧品開発の新時代へ
(上記画像をクリックするとプレスリリースページ(https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003893)が開きます)

このAI技術搭載プロジェクトの背景や進行中の苦労や成果について、研究所キーマンの宗像英仁さんとSIB IT本部でITプロジェクトマネージャーの柿沼博紀さんに話を伺いました。インタビューでは、プロジェクトがどのように進められ成果を生み出しているのか、またプロジェクトとSIBの関わりなど裏側に迫ります。資生堂の未来を切り拓くこのプロジェクトの詳細を、ぜひご覧ください。


まず、自己紹介をお願いします!

宗像さん(以下、宗): 新卒で研究所に入社して約9年です。入社理由は、アカデミアではなくビジネスの現場で世の中にダイレクトにバリューを提示したい、そして日本の美を代表する資生堂で"Beauty"の語源では説明できない日本の"美"という概念を、サイエンスすることにチャレンジしたいと考えたからです。最初はスキンケア製品を担当し、乳液やクリームなどの処方開発や新しい乳化技術の開発などを手掛けました。

入社3年目に、先輩が立ち上げたDXプロジェクトに参加することになり、そこからデジタル分野にキャリアをシフトしてきました。学生時代からITと生物学を組み合わせた研究をしていたので、デジタルの世界には自然と興味を持っていましたね。

柿沼さん(以下、柿): SIB IT本部 ITソリューション部PLM・R&Dグループに所属しています。前職ではシステムインテグレーターで銀行系システムの担当でした。入社して10年が経ち新しい領域にチャレンジしたいと感じていました。異分野のメーカー系で化粧品研究開発のシステムという全く未知の領域に携われることが決め手となり、2019年に資生堂に転職しました。

現在は、主にVOYAGERという化粧品開発デジタルプラットフォームの開発や保守を担当しています。VOYAGERは化粧品の処方データや安定性、安全性や実験データなどを一元管理するプラットフォームです。資生堂の処方開発の研究員全員が使う仕組みで、海外の研究所でも使われ始めています。

柿沼さん(左)と宗像さん(右)

DXプロジェクトについて教えてください

宗:DXプロジェクトは「研究員の時間と心の余白を生み出すDX」を合言葉に、データ活用とAI導入を通じて、化粧品開発を飛躍的に効率化することを目指しています。2021年から開発が始まり、今年2月に化粧品物性の検索や比較、類似性を評価する処方開発AI機能をローンチしました。この開発過程において重要なテーマは、AIに学習させるための化粧品の処方開発データの収集でした。

プロジェクト当初はAI学習に必要なデータを収集するため、VOYAGERを活用してデータを蓄積し、集約化することに取り組みました。そしてAIを活用して、処方の検索や比較を行う”処方開発AI機能”を開発し、研究員がより効率的に作業できる環境を整えています。

柿:今回開発した処方開発AI機能は、研究員が化粧品処方を設計する際、過去データを基に検索や比較ができるというものです。AWS(Amazon Web Service)上に構築した処方開発AI機能を、既存の研究開発プラットフォームのVOYAGERからシームレスにアクセスできるようにしました(下図参照)。

忙しい研究員が複数のシステムを使わなくて済むよう、ユーザビリティを考慮しています。研究員が実験の手間を減らし、より創造的な作業に時間を割くことができるアーキテクチャにしました。こうすることで、AIを最大限活用し、研究開発の生産性向上や画期的な商品開発の実現を目指しています。

処方開発AI機能の活用イメージ

どのような背景でDXプロジェクトができたのですか?

宗:資生堂の年間化粧品開発件数は膨大で、研究員は日々開発に追われています。入社3年目にベテラン研究員が小規模に立ち上げた処方開発のDXプロジェクトに参画、「実験・測定に追われる研究員を繁忙感から解放し、開発プロセスを画期的に革新したい。それにはデジタル技術活用が不可欠」と考えるようになりました。同時に、その実現には研究所のデータ一元化や活用が不足しているという課題認識を抱きました。

さらに経営戦略部から異動されてきた上司のイニシアチブ、この課題意識が研究所経営層と合致したことも追い風となり、翌年にはDX専任部署が立ち上がりました。今では研究所全体のDXプロジェクトとして、トップダウンとボトムアップの調和がとれたDX推進力強化に繋がっています。

柿:私が資生堂に入社したとき、すでにVOYAGERというプラットフォームは導入されてましたが、利用率が高くなくデータ活用も進んでいない状況でした。またその改善には何らかの組織的な力が必要という課題感がありました。このプロジェクトで研究所と一体でIT環境の改善とデータ活用を進めて、研究員がデータ活用しやすい環境を整えられるのではと考えていました。プロジェクト発足以降のIT活用度の向上には目を見張るものがあります。

宗像英仁さん(ブランド価値開発研究所 開発推進センター DX価値創出グループ)

プロジェクトで苦労されたことを教えてください

宗:AIで化粧品物性などを検索・比較するためには、商品開発途中の試行錯誤のデータが重要です。試行錯誤のデータは業務上必ずしも登録が必要なものではありません。プロジェクト当初は、VOYAGERへの試行錯誤データの登録率向上が大きな課題でした。モチベーション理論や組織行動論なども学び、AI導入成果の価値を組織全体に伝えていく工夫もしました。

柿:IT面での苦労としては、本当に多くの要望が研究員から寄せられますので、さまざまな要件をどのようにVOYAGERに反映させるかが課題でした。全ての要望を取り入れようとすると、かえってユーザビリティは悪くなります。予算と時間の制約の中で、使いやすいプラットフォームを構築するために、UIの設計やデータの連携に工夫を凝らしています。

宗:VOYAGERでのデータ登録作業動線の改善や現場のハンズオンフォローを繰り返したおかげで約1年かけて100%近くまでに引き上げることができています。

柿:あと、研究所側で開発した複数のAI機能を、順次VOYAGERに取り込みながら開発を行うという特殊なプロジェクト形態で、どうしても業務要件やシステム要件が変動するため、柔軟な対応が必要です。ウォーターフォール開発にアジャイル要素を取り入れたハイブリッドスタイルにし、効率的な開発ができるようにしたのも大きなチャレンジです。

柿沼博紀さん(IT本部 ITソリューション部 PLM・R&Dグループ)

DXプロジェクトでどんな成果が得られましたか?

宗:過去データ検索、比較、類似処方検索などがAIで可能になったことで、研究員の作業の効率化が見えています。これにより、研究員はより創造的な作業に時間を割くことができるようになり、これまでにないテクスチャの商品開発といった革新的な価値創出の促進に繋がります。また、研究所内のデジタルへの意識が高まり、データ蓄積や活用の重要性が全体的に認識されるようになりました。今やデータ蓄積が当たり前になっています。

柿:アンケートでも、予想以上の生産性向上が確認され研究員が効果を実感し始めています。プレスリリースされたことで、資生堂のデジタル化への取り組みが外部にも認知され、企業イメージの向上にも寄与しています。資生堂が業務部門とIT部門一体でデジタル活用を進めている革新的な企業ということが広く伝わると嬉しいですね。

最後に、得られた学びや経験について教えてください

宗:IT部門との連携を通じて、システム開発プロセスや業務要件、システム要件の整理について深く理解することができました。どうしたら業務部門がITプロジェクトを成功させられるのか分かってきた気がします。今後のDX推進に向けた大きな財産になっています。

柿:AI技術そのものの開発に関わることができたのは貴重な経験でした。また、研究員との連携を通じて業務への理解が深まり、システム開発における新たな視点が得られました。これらの経験は、今後のプロジェクトにおいても活かしていけると思います。

研究所とIT部門の情熱とチームワークが、資生堂の未来を切り開いていることが伝わってきます!ありがとうございました!

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大井 秀人(おおい ひでと)

大井 秀人(おおい ひでと)
資生堂インタラクティブビューティー IT本部 マネージャー。製品開発、R&D、CS領域のIT導入やDX推進を担当。化学、エンジニアリング、電機などの製造業で一貫してR&Dデジタル化のプロジェクトに関わったあと、2019年に資生堂に入社。IT本部副業申請1号の中小企業診断士の顔も持つ。最近はKALDIや久世福で調味料の大人買いとキムチ作りにはまり気味。