Headless Commerceで未来のショッピング体験を創造する
今回は、私たちが取り組んでいる「Headless Commerce」についてお話ししたいと思います。
※導入例:Salesforce Commerce Cloud のコンポーザブルストアフロントをIPSA 公式サイトに採用 ~快適な E コマース体験の実現へ向けて~ | 株式会社資生堂のプレスリリース
こんにちは! 資生堂インタラクティブビューティー(SIB)の武藤です。私は資生堂の各ブランドが独自で運営しているECサイトのシステムを担当しています。少しシステム寄りの話になりますが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
Headless Commerceとは
「Headless」は直訳すると「頭がない」、そして「Commerce」はEC(e-Commerce)のことです。従来のECサイトは、フロントエンド(ユーザーが見る部分)とバックエンド(データベースやサーバー側の処理)が一体となっていましたが、Headless Commerceでは、このフロントエンドとバックエンドが分離されています。フロントエンド(頭)が分離されているので、頭がない「Headless」ということです。
この分離によって、フロントエンドでは自由にデザインや機能をカスタマイズできるようになり、バックエンドでは安定したデータ処理を行うことができます。Headless Commerceは、より柔軟で拡張性のあるECサイトを実現するためのアーキテクチャなのです。
Headless Commerceって、なにがいいの?
Headless Commerceの最大のメリットは、フロントエンドとバックエンドを切り離すことによって、フロントエンドの自由度が上がることです。
バックエンドの仕組みに引きずられることなく、新しい技術を導入したり、トレンドにいち早く適応することが可能となり、今後ますます多様になるデジタルタッチポイントで、一貫した顧客体験を提供するために最適な仕組みと言えます。
1. システム開発の柔軟性
2. お客様のニーズに合わせた改善活動の高速化
3. 複数のチャネルに対応しやすい構造
これらのHeadless Commerceの優位性は、ECサイトを運用する上で重要な意味を持つことになります。続いては、なぜ私たちがHeadless Commerceの取り組みを行っているのかをお話ししたいと思います。
なぜHeadless Commerceなのか?
個人的な話をしますと、私がECサイトの仕事を始めたのは、ちょうど20年前の2005年頃になります。その頃はまだECサイトの黎明期で、デザインも今のように洗練されておらず、ガラケーサイトの売上は伸びている状況でした。それから多くの新技術が生まれ、流行り廃りの中で、ECサイトは少しずつ使いやすく、見栄えも良くなってきました。今では誰もが当たり前のようにスマホで商品を購入する時代になりました。
Headless Commerceは比較的最近出てきた新しい概念です。背景にはデジタル環境の複雑化、絶え間ない技術革新、お客様からの多様なニーズへの対応などがあり、様々な要因によって注目を集めるようになってきました。
ECサイトを取り巻く環境は、この20年目まぐるしく動き続けており、これからも進化は続いていきます。そういった環境にECビジネスはどうやって追いついていくのか。Headless Commerceはそのための一つの方法であると考えたのです。
さっそくやろう! とは中々ならない
Headless Commerceを進めるにあたり、課題はもちろんたくさんあります。技術的な課題、システム構成の複雑さなど、乗り越えなければならない壁も存在します。
しかし一番の問題は、導入して満足してしまうことだと私は考えています。システムを無事に導入することはひと苦労です。導入した後、安定して稼働しているとホッとします。ただ、システムは導入して終わりではなく、いかに効果的に使っていくのかが非常に重要になります。Headless Commerceにおいては、特にそうだと思っています。
Headless Commerceを導入するメリットの一つに、システム開発サイクルの高速化が挙げられます。これは開発の期間が短くなるということではなく、小さな要求を拾って開発に移し、素早くリリースまでできるということですので、Headless Commerceを運用する人の頭の中が従来通りの手続きを踏んでいると、Headless Commerceを十分に活かせないことになります。
つまり、ECサイトは高速で改善を繰り返すものだ、というマインドセットに切り替えていかなければなりません。ECサイトでは、多種多様なデータを取得できます。データに基づき、どの部分に課題があるか仮説を立て、それを実際に検証するというサイクルを続けていかなければならない。それがECサイトの運用である、というマインドセットです。今までのような重厚長大なシステムを、「よっこらせっ」と導入するのではなく、小さな改善を積み重ねるという方法に変えていくことが必要になるのです。
Headless Commerceを最大限活かすために
そこで私たちはHeadless Commerceのメリットを最大限生かすために、二つの取り組みを並行して行っています。
1.要求の整理と優先順位
ECサイトにはメニューを追加する、ページ上のブロックを入れ替えるなど、小さなことから大きな機能追加まで、様々なステークホルダーからの要求があります。
今までそういった要求は個別に検討され、実施されてきましたが、これを一つの表にまとめて一覧で確認出来るようにします。やっていることはとてもアナログなことなのですが、これによって要求の可視性が高まり、どれを先にやるべきか話しやすくなります。
こういった要求を得られたデータを元に一つ一つ分析し、仮説を立てて実行に移していきます。この実行の部分がシステム開発です。今までやってこなかった訳ではありませんが、よりECサイトの改善サイクルを早めるために、改めて意識的に取り組んでいる部分になります。
2.開発プロセスの効率化
開発プロセスとは具体的にシステム開発をするときの流れのことを指しています。システム開発というと、プログラミング言語を使い、命令文をひたすら記述していくイメージをしがちですが、それ以外にもプロセスというものが存在します。
作ったプログラムを機械が認識できる形に変換し、動作する環境に配置する必要があります。その間、プログラムが正しく記述されているか、動作は問題ないかなどのチェックも行います。これらのプロセスはシステム開発期間中、何度も繰り返されます。
このプロセスはお決まりのパターンがあるので、自動化できるのです。この部分をできる限り自動化し、システム開発の効率を上げようという取り組みになります。
私たちの考えるHeadless Commerceを使ったECサイト運用とは、このサイクルをできるだけ早く回して、ECサイトを効果的に、スピーディに改善していく活動のことです。
Headless Commerceの可能性
私たちの取り組みは始まったばかりで、まだまだたくさんの課題があり、一歩一歩前進している最中です。簡単に入れ替えられるものではないですし、効果を出すためにも大きな努力を必要とします。
しかし、Headless Commerceが実現できれば、様々な可能性が生まれます。ECサイトやスマホアプリだけではなく、よく利用しているソーシャルメディアから直接注文ができたり、スマートウォッチがバイタルデータを分析して適切な商品を提案したり、自分のことを全部分かっているAIが必要なものを必要な分だけ購入してくれたり、こういったことは技術的にはすでに実現可能で、近い将来、誰もが当たり前のように使いこなしているかもしれません。そういった未来に向けて私たちも取り組んでいこうと思います。
今回は私たちが取り組んでいるHeadless Commerceについてお話しました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。