【ビューティーテック】DNA検査サービス|Beauty DNA Programのシステムを教えます
はじめまして、資生堂インタラクティブビューティー(SIB)の中尾です。
私はSIBで【美容部員(以下、PBP)×テクノロジー】のサービス開発を担当しています。
今回はDNA検査・カウンセリングサービス『Beauty DNA Program』のシステムの中身をご紹介したいと思います。私はSIBに中途入社して2年弱になりますが、実際に担当するまでは、ビューティーテックは特殊なシステムで難しそうだなと思っていました。
結論から言うと、一般的なWebシステムとそこまで乖離はありませんが、ビューティーテックならではの構築ポイントや、はまりポイントもありますので、そのあたりを中心に共有したいと思います。
ビューティーテックに興味のある方はもちろんのこと、デジタルサービスの開発を担当されている方、エンジニアの方もぜひご覧ください。
1. システム全体像
1-1. サービス概要
まずサービスについて簡単に紹介したいと思います。
Beauty DNA Programを受けると次の3段階のサービスを受けられます。
■サービス①:DNA検査
AI技術を用いたDNA検査によって、生まれ持った肌の特徴を調べられ、その結果報告を受けられます。
■サービス②:パーソナルセッション
PBPから、食事・睡眠等のライフスタイルや、スキンケア方法のアドバイスを受けられます。
■サービス③:アフターフォローメール
お客さまに合わせた、パーソナライズなケア方法をサポートするメールが届きます。
お客さまはサービス購入から継続サポートまでの一連のフローを体験することができます。
1-2. システム構成
サービスを実現する主要なシステム機能が次の3つになります。
DNA情報から生まれ持った肌の特徴を分析する機能
パーソナルセッションのためのオンラインカウンセリング機能
パーソナライズメールの配信機能
実際のシステム構成としては、AWSのクラウドサービスをベースとし、SaaSを組み合わせたものになっています。
開発の経験がある方は分かると思いますが、一般的なwebサービスのシステムとそこまで乖離はありません。
特徴的な部分としては、DNA情報なのでセキュリティレベルを高く構築していることと、検査結果を見ながらPBPがカウンセリングをするためにUIにこだわったことになります。(UIの件を話すと長くなるのでまたどこかの機会に)
2. AIを使ったDNA肌分析システム。でもAI以外が大変?
2-1. DNA肌分析システムの詳細
DNA肌分析をするためにはまずお客さまの唾液を採取し、DNAのSNP情報を抽出します。その情報を元にAIのアルゴリズムで分析を行い、肌体質や肌レジリエンス力などの独自の結果をデータベース(DB)に格納します。
最後にDBの結果をHTMLやAPIを使って、マイページに可視化を行います。
2-2. サービス開始後に分かったDNA肌分析システム上の課題
DNA肌分析システムのコアな部分は資生堂独自の肌分析AIアルゴリズムになります。しかし実際にサービスを開始して起きた課題は、AIの部分ではなく、インプットとアウトプットの領域でした。
■インプットの課題
唾液の取り方によって、SNP情報がうまく抽出できないケースが散見
結果的にインプットデータが欠損しており、DNA肌分析ができない
■アウトプットの課題
AIで分析した結果内容の整合性に違和感
(例:肌体質が乾燥しにくいのに、肌の抵抗力として保湿力がかなり悪い)
インプットの課題に対しては、主にシステムの改善を行いました。具体的には、利用するSNPの有効性の閾値をうまく工夫をして、多少欠損していても、精度高く分析できるようにアルゴリズムを修正しました。
また唾液採取の1時間以内に食事をしないなど、唾液採取のやり方によるものもあるため、お客さまに適切な案内も再度しました。
一方、アウトプットの課題は、AIの結果をどう解釈するかというAIプロジェクトではよくある問題でした。
お客さまに満足いただくことが肝心ですので、お客さまに対面するPBPのスキルアップは必要不可欠です。検査結果の解釈が難しい場合でも、お客さまに分かりやすく説明ができるよう説明方法や話法をPBPが構築しました。
PBPとサービス開発担当、そして資生堂の研究員が何度もやりとりを行い、みんなが内容を納得・理解した形で、適切な話法を作っていきました。
ビューティーテックとはあくまで新しい価値を提供するための道具であり、それを正しく理解し有効活用するためには、人(PBP)が重要だと改めて感じました。
3. オンラインカウンセリングシステムで苦労したわけ
3-1. 初期に起きた問題
当初導入したのが、アプリやツールをインストールしなくても利用可能な、ブラウザベースのオンライン通話ツールでした。
基本機能が整っていれば支障は出ないはずと思っていましたが、実際サービスが開始されると、画面が映らない、音声が聞こえないなどの問題が発生。
トラブルの原因はブラウザやOSのバージョンが古い、事前設定が不十分など様々で、オンラインカウンセリング自体まだ主流じゃなく、未経験のお客さまが多数いらっしゃったのも要因だったと思います。
3-2. ツールを変更してみる
トラブル内容をまとめて、都度トラブルシューティングをしていたのですが、思い切ってオンラインカウンセリングをTeamsに変更し、試してみたところトラブルが激減!
すでにサービスローンチしたツールの一部を変更することは、リスクが伴うものの、結果としてトラブル減少に繋がりました。
■主な改善理由
Teamsが安定していること
接続トラブルが起きてもアプリによるものなので、ブラウザのバージョンなどには依存せず原因の特定が容易になったこと
Teamsに慣れているというカウンセリング担当者の精神面
今回の場合、最初のツールが悪かったというよりサービス内容やお客さまの層などの条件によって、Teamsの相性が良かったんだと思います。
サービスローンチ後のツール変更はハードルが高い場合も多いですが、柔軟に変更して適切なものを見つけることが大事なのかもしれません。
4. 道半ばのパーソナライズメールの話
4-1. アフターフォローメールの内容
DNA検査が完了した方を対象に、季節にあわせた肌ケアのパーソナライズメールを配信しています。10月の秋の肌ケアについて案内するメールでは、DNA検査結果の肌体質のパターンに合わせた内容を配信しました。
肌体質は6項目ありますが、その中で要ケアに該当する体質に対する、おすすめケアを案内しています!
(複数要ケアに該当する方は別途独自ロジックにより対象の体質を選定)
4-2. 検討時の反省点
当初はパーソナライズ性が非常に重要と考え、検査結果の様々なパターンに対応するメール作成を検討していました。
しかし、実際にパターンを複数に分けたところで、お客さまにメリットのあるコンテンツがない(結局数パターンで網羅できてしまう)、あるいは、複雑すぎてお客さまに一貫したメッセージを送れないなどの課題が出てきたのです。
データを使えば使うほど、パーソナライズが高度化し、お客さまに良い価値が提供できる。というのは必ずしも正しいとは言えず、実現したい体験や価値からデータ活用を考えるべきだと立ち戻ったのです。
4-3. メール配信システムの詳細
お客さまに配信する最適なパーソナライズメールはまだ道半ばではありますが、今後も改善できるよう柔軟なシステムを構築しています。
ツールはSalesforce Marketing Cloudを利用しています!
配信対象リスト作成のためのデータ集計やフラグ付けは、Automation Builderでステップを作って加工処理を行っています。
また、メール配信のトリガー設定についてはMA(マーケティングオートメーション)の機能で自動化をしています。
例えばオンラインカウンセリング後の7日後に配信、などをJourney Builderで構築しています。
メール配信システムの使い方としては一般的なCRMメールと同様ですが、肌分析データを活用をしたパーソナライズコンテンツとは何か、という部分が一番の課題であり、今後の改善ポイントとなっています。
5. 今後について
お客さまにサービスを体験いただくことで、様々な課題ややるべきことがまだまだたくさんあると感じています。
これからもお客さまの声やPBPの声を元に、より良いシステムを目指して、アップデートしていきたいと思います。
もっとこうするといいのではないか、などの知見をお持ちの方、ぜひコメントいただけると嬉しいです。一緒に働く仲間も募集しています!
『Beauty DNA Program』の開発経緯や裏側も記載しておりますので、ぜひこちらもご参照ください。
・資生堂のDNA検査・カウンセリングサービスを本格リリースしました<前編>
・資生堂のDNA検査・カウンセリングサービスを本格リリースしました<後編>