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資生堂のDNA検査・カウンセリングサービスを本格リリースしました<後編>

まずはPoCから

社長に提案してみたら

 まずは、PoC(Proof of Concept)的に、店舗と人数を限定して展開することとなりました。とはいえ、それなりにシステム開発費がかかるので、経営陣に提案をしなければなりません・・・。

 ドキドキしながら提案したところ・・・、資生堂ジャパンの社長が、力強く口火を切りました。

これは絶対やるべきだと思う!

 というのも、<前編>でお話ししたワークショップに参加していた社員と、たまたま話す機会があったらしく、その社員から「DNA、すごかったです!」と聞いていたとのこと。
 まるで、提案を通すために仕組んだみたいですが、仕組んでませんから!!全くの偶然です。これは神様も「やれっ!」ってことかなと。

実際のワークショップの様子

 これにより、システム開発費のめどが立ったので、開発に着手することができました。戦略パートナーシップを結んでいるアクセンチュアさんと一緒に、ゴリゴリ開発していきます!

美容サービス≠化粧品

 当然ながら、サービス開発は、SIB(資生堂インタラクティブビューティー)単独で完結するわけではなく、社内の様々な部門との調整も必要です。誤解を恐れずに言うと、資生堂の組織は「化粧品の物販」に最適化されているので、今回のような「美容サービス」のようなスキームはなく、イレギュラー対応をする必要がありました。

 経営企画、IT、ロジスティクス、ファイナンス、営業、マーケティング・・・毎日駆けずり回り、なかなか骨の折れる仕事ですが、「すごいことやってるね!」「面白そう!ぜひ私も体験したい!」と言ってくれる方もいて、勇気づけられました。

デジタル特化型パーソナルビューティーパートナー

 システム開発や社内調整は進んでいますが、一方で、PBP(パーソナルビューティーパートナー)によるパーソナルセッションのトレーニング方法を設計しないといけまんせん。

 資生堂には全国に約7,000人のPBPがいますが、いきなり7,000人にトレーニングし、セッションの品質を担保するハードルが高い・・・。そこで、SIBに所属している「デジタルに特化したPBP」に絞り、「オンライン」でカウンセリングするやり方で始めることにしました(後に、全国の主要支社に所属するPBP数名にも協力してもらいました)。

 SIBには約40人の"デジタル特化型PBP"が所属しており(2023年8月時点)、Beauty DNA Programだけでなく、通常のオンラインカウンセリングやチャットによる美容相談、InstagramやTikTok、Youtubeなどからの情報発信、Liveコマースなど様々なデジタルの取組みを行っています。

 データサイエンス、デジタルテクノロジーなどデジタルの専門家の隣に、美容部員がいる、という世界でもまれな、ユニークな環境があるのがSIBです。

デジタルに特化したPBPの多様な活動


ハードなトレーニング

 PBPは、美容のプロフェッショナルです。完全に手前味噌ですが、個人的には世界一だと思っています。彼女ら/彼らと話ししていると、本当にお客さまのことを思い、何がお客さまにとってBestなのか?を常に考えていることが、ひしひしと伝わってくるのです(こんなふうに美容部員と会話できる環境もSIBならでは!)。

 しかし、Beauty DNA Programでは、遺伝子、ウェルネス、薬機法など関連する法令、ビデオ会議アプリケーションの操作、通信トラブル時の対処方法なども学ばないといけません。これは本当に大変で、負担をかけて申し訳ない・・・とずーっと気になっていました。
 でも、PBPはやり遂げてくれました!しかも「大変だけど、自分が成長していることを実感できる!」との前向きな言葉まで!!

カウンセリングブースの設置

 このサービスでは、DNA(から求めた生まれ持った肌の特徴)という非常にデリケートな情報を取り扱うため、オフィス内の通常のデスクでカウンセリング(パーソナルセッション)するわけにはいきません。
 特に、SIBのオフィスはフリーアドレスということもあり、セッション中に誰かが後ろを通ったりするとお客さまは大変不安になってしまいます。

 そこで、総務部門にお願いし、専用のカウンセリングブースを設置してもらいました。ピンクとベージュでなかなかおしゃれです。
 これで、覗かれる心配や周囲への音漏れがなくなり、お客さまも安心してパーソナルセッションを受けることができます。そのほか、個人の携帯電話の持ち込みはNGとするなどのルールも作っています。

専用カウンセリングブースとパーソナルセッションのイメージ


 途中でサービス内容に変更が生じるなど、様々な困難がありましたが、提案・承認からわずか8か月という短期間で完成させました!
 いよいよPoCの開始です。サービス成功を祈り、オフィスの近くにある芝大神宮にもお参りに行きました。

デジタルの会社ですが、伝統も大切にしています!


PoC体験者の反応

 PoCは、無償モニターキャンペーンと直営店および一部の専門店で販売する形で行いました。

いっぱい課題が出ました

 やってみると、やはりいろんな課題がどんどん出てきました。これは、PoCなので当然なのですが、お客さまをはじめ、販売店、社内の多くの部門にご不便とご迷惑をおかけしてしまいました。が、プロジェクト側の不備を現場の皆さんがしっかりリカバリーしてくれました!感謝!

 プロジェクトメンバーは、全国の支社長と話し合ったり、実際に販売店に出向いて現場の生の声を聴くなどして課題を特定、できることから解決・改善することを繰り返しました


一方、お褒めの言葉も

 一方、体験いただいた方の評価はすこぶる高く、アンケートに回答いただいたほぼ全員が「友人に勧めたい」「提案されたケアを取り入れたい」と回答。これが励みになりました!

・自分で思っていた通りの結果だった。引き続き、肌のお手入れを頑張る!
・思ってもみなかった意外な結果だった。早速、肌のお手入れを変えた!

また、どちらの場合にも共通して

PBPのパーソナルセッションが素晴らしい!
    親身になっていろいろ教えてくれて、あっという間の時間でした

といったお褒めの言葉をいただきました!
 パーソナルセッションに感動し、担当PBPのインスタアカウントにDMをくれたお客さまもいました!

 また、下記のような想定してなかったお客さまもいらっしゃいました。購入に至った理由を聞いてみると納得です!

  • 20代前半の若い世代
    … 早く知ることで、これからずっと迷わなくて済む!コスパ高い!

  • ご夫婦で一緒に
    … メンズ美容も注目されているし、2人ならより頑張れるかも!

  • お母さんとそのお嬢さんが一緒に
    … はたして似た結果になるのか?興味津々!

  • リケジョや研究者の方
    … ひと目で価値を理解!これはすごいから絶対やるべき!


業界初!遺伝情報取扱協会の認証

  資生堂の研究所が開発したDNA解析の技術は、皮膚測定の国際学会であるISBS (International Society for Biophysics and Imaging of the Skin)にて、査読を受け、原著論文として、世界に公開されており、科学的根拠がしっかりしたものです。

DNA解析技術に関する原著論文
※WILEY Online Libraryより引用


 また、システムのセキュリティに関しても、社内セキュリティ規程に則り開発しており、外部企業によるセキュリティテストもクリアしています。

第三者からのお墨付き

 しかし、これらは、いわば"自称"なので、やや説得力に欠けます。今後の本格展開を見据え、第三者機関からの客観的な評価を得ておきたいところです。

 そこで、一般社団法人 遺伝情報取扱協会(AGI)の認定制度を取得することにしました。この認定取得にはAGIが定める10の大項目、合計63個のチェック項目をクリアする必要があります。また、このチェックに関しても”自称"では不十分で、外部の専門家を入れた第三者委員会にて、審議・承認を受ける必要がありました。

社内に委員会を作る

 簡単に言うと、資生堂ジャパン株式会社内に、個人遺伝情報取扱審査委員会を設立しなければいけません。社内に勝手に委員会を作るわけにはいかないので、まずは、資生堂ジャパンの経営会議で提案し、承認を受けました。

 社内に第三者委員会を作った経験がある人なんて、まわりにいるわけありませんので、手さぐりで進めました。もうこうなると「なんでもやりますよ!」という開き直りです。

 次に、委員を選定します。研究部門、法務部門、セキュリティー部門等ににお願いし、医師、法律、セキュリティー、消費者問題の外部有識者を紹介してもらいました。

個人遺伝情報取扱審査委員会の構成


 そして、なんとか委員会を開催。各委員は国内トップレベルの有識者なので、鋭い指摘がいくつかありましたが、無事承認。議事録をAGIに提出し、「遺伝情報適正取扱認定スタンダード」を取得できました。

 これは化粧品業界では初となる認定です!、科学的根拠や本サービスにおける個人情報の保管や取扱いの健全性が客観的に認められたことになります。

汗と涙の結晶!AGI認定証


いよいよ本格展開へ

 PoCで把握、7/21に本格展開することにOKがでました。

2023年7月21日ローンチ

 キービジュアルは、光のさす方向(=明るい未来)を穏やかで確信に満ちた表情で見つめている横顔、キーコピーは、このサービスにより自分のことがよくわかり、それが美しく健やかな未来につながっていく、という意味を込めて「あなたのDNAが、美のヒントを 教えてくれる」としました。
 これらは、SIBのアートディレクター、コピーライターと一緒に作り上げました。

キービジュアルとコピー


 ローンチの1週間前の7/14にはニュースリリースを発行し、情報解禁。各種メディアが取り上げてくれました。

 ローンチの前日、7/20深夜にシステムリリースをします。トラブルが発生し、公開できなくなるとすべてがひっくり返るのでドキドキでしたが、なんとか無事に7/21未明に完了。システムチームおつかれさまでした!


150年間ブレない

 このサービスについて、「まさに最先端ですね!」「ついにDNAを使ったパーソナライズまで来たのですね!」とよく言わます。
 確かに、手法としては最先端なものです。ただ、一人ひとりに合わせた美を提案する、という姿勢は資生堂の創業当初からあったものです。
 例えば、1936年には、自分に似合うメイクアップの色がわかる「資生堂ビューティーチャート」というツールを作っています。

1936年(!)に制作した資生堂ビューティーチャート
シーンやイメージに合ったメイクアップアイテムがリコメンドされる
(写真では「スポーツ化粧」が選択されている)


 資生堂は昨年、創立150周年を迎えましたが、150年間変わらず、ブレずに、その時代に合った手法で、一人ひとりに合わせた美を提案していると言えます。

ここからがスタート

 ただ、ここがスタートで、これからが大事です。最初に決めた「美しく健やかな未来に導く」というパーパスを実現できるよう、サービスを磨き続けていきます!

 100年後、資生堂ビューティーチャートみたいに紹介されるようなサービスになりますように!


 大変長文となってしまいましたが、このような紆余曲折を経て、本格展開にこぎ着けました(もし、SIBにJoinいただけたら、ここには書けないようなこともお伝えできますよ!)

 このプロジェクトでは、「社内初」をいくつもやりました。
 何度もくじけそうになりましたが、前向きに粘り強く動いてくれるプロジェクトメンバーと的確なアドバイスをくれたSIBの部長、本部長、社長や社内関係者、そして何よりも、お客さまからの温かいお言葉に救われました!

 この場を借りて、お礼申し上げます。ありがとうございました。

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吉川 拓伸(よしかわ ひろのぶ)
資生堂インタラクティブビューティー グループマネージャー/博士(工学)
新卒で資生堂に入社、肌や化粧品の色彩計測、店頭肌分析機器開発に携わる。その後、バーチャルメイクアップやスマホ肌分析等のデジタルコンテンツ開発、デジタル戦略立案等のDX推進を担当。現在、Beauty DNA Programのプロダクトマネージャーとして、サービス開発をリード